葬り去られた日本の解放神学者
青年時代、賀川が試みたのは「神学する場」(locus theologicus)を神戸新川の貧しい人々の間に求めて、キリスト教の信仰をそうした人々の生き様に添って展開しようしたことである。賀川は神が貧しい者の場に現れること、いや貧しい者の場こそが神を知る特権的な空間であることを熟知していた。当時の教会が都市中産層に伝道の活路を求めたのとは異なって、賀川は「もうひとつの」無視された場所、今日風に言いかえれば「他者」が生きる社会の下側から神に近づこうとした。彼は戦前戦後を通じて、社会の底辺に苦渋する人々に福音のまなざしを向け、それを怠った日本の教会と神学に鋭い批判をなげかけた。教会が狭い個人主義から脱すべきことを論じ、聖書の解放的メッセージのもとで、虐げられた者に目を注ぐという預言者的な役割を果たした賀川。彼にとって神学とは書斎でなされるものではなく、貧しい者の場から生れでる、ラテンアメリカ神学の用語でいえば、「第二の行為」であった。信仰者の社会参与を論じ、そのなかで信仰を鍛錬しようとした賀川は、「神の国」が人類進化の歴史過程の中で、抑圧された者の解放と社会経済的公平の上に実現すると考え、生活改善運動や労働運動はもとより、世界恐慌下で辛苦する失業者やホームレスの群れに飛び込んだ。そうした面を見るならば、賀川は七〇年代、エキュメニカル世界を席巻した解放神学の「貧しい者の選択」(option for the poor)のパイオニアだったと言っていい。
特集1
二つの記念事業 / 倉橋克人 26
賀川の解放神学を読む / 栗林輝夫 32
特集2
Departure / 宇都宮秀和 40
野呂芳男氏の神学 / 八木誠一 44
野呂神学が問いかけるもの / 岩田成就 47
*
わたしたちはいまどこにいるのか その1 / 戒能信生、深井智朗 50
*
新連載
キリスト教と外国文学1 ドストエフスキー『罪と罰』を読む1 / 柴崎聰 10
*
連載
メッセージ 聖書の中の彼女たち9 「快い」人生 / 渡邊さゆり 2
時のしるし9 非暴力・非まじめ・道楽者――イエスと共に「逃げ場」をつくる / 櫻井淳司 6
明治キリスト教の周辺26 身体改革の先駆者 / 太田愛人 8
神学の履歴書25 東方正教会の神学の世界⑤ / 佐藤優 14
交響する啓典の民9 何故ザビエルは日本まで布教に来たか? / 伊東乾 19
エコノミストの聖書日記3 貧しさの中の豊かさ / 浜矩子 52
韓国からの声9 「1910年」 / 洪伊杓 56
ことばと私15 scales fell from the eyes / 東後勝明 59
出版社の神学9 政治と編集者③ ローヴォルト書店の政治的美学 / 深井智朗 60
詩篇の思想と信仰83 神々への審き / 月本昭男 66
新約釈義 使徒行伝62 19章23―24節 / 荒井 献 78
読者の声 / 石浜みかる 79
表紙の美術作品について / 竹内 一 80