『アーバンソウルズ』刊行に寄せて 第一版への賛辞

2022年02月18日

『アーバンソウルズ』刊行に寄せて 第一版への賛辞

2月25日、新教出版社ではオサジェフォ・ウフル・セイクウ著『アーバンソウルズ 黒人青年、宗教、ヒップホップ・カルチャー』(山下壮起訳)を刊行します。著者のセイクウは、アメリカの伝統的黒人教派チャーチ・オブ・ゴッド・イン・クライストの牧師にして、ブラック・ライヴズ・マターとも歩みを共にしながらアクティヴィストとしても活躍している気鋭の黒人神学者です。同書でコーネル・ウェストが序文を著し、またロビン・D・G・ケリーのような日本語圏でもよく知られた研究者が賛辞を寄せていることからも、その存在の重要性が伺えます。今回の『アーバンソウルズ』は、セイクウの主著urbansouls: Reflections on Youth, Religion and Hip-Hop Culture(chalice press, 2018)を、『ヒップホップ・レザレクション』『ヒップホップ・アナムネーシス』でヒップホップの宗教性を詳らかにした山下壮起さんの生き生きとした文体によって翻訳したものです。そこでセイクウは、公民権運動以後に階級分化の進んだ黒人社会にあって、ミドルクラス的な価値観に依り頼む黒人教会から排除されたアンダークラスの若者たちを「神学的行為者」として位置づけます。彼ら彼女らは、黒人教会の思想的遺産を受け継ぎながらも、しかしその枠組みを乗り越えて、インナーシティの過酷な差別的現実の只中で神を呼び求め、救いを表現しているのです。そしてセイクウにとって、その声の範例となるのがヒップホップにほかなりません。数多くのラッパーたちを召喚し、その声の内にありうべき救済のビジョンを聴き取るセイクウの議論は、ジェイムズ・コーンやコーネル・ウェストに続く、次世代の黒人神学と呼ぶにふさわしいものです。以下では、同書の第一版(urban press, 2001)に寄せられた賛辞を掲載します。ぜひお読みいただき、また刊行の折には同書をお手にとっていただければ幸いです。

『アーバンソウルズ』第1版に寄せられた賛辞 ロビン・D・G・ケリー、ウィリー・F・ウィルソン、マニング・マラブル、デヴィッド・ロディガー(翻訳=山下壮起)

『アーバンソウルズ』は、これまでわたしが読んだなかで最も魂を揺さぶられた、都市の状況についての黙想である。驚くほど若く、活力に溢れるオサジェフォ・ウフル・セイクウ牧師は、社会科学の二枚舌を押しのけ、その代わりに、過去と現在のアフリカのグリオ(西アフリカの伝統文化において演奏に合わせて歴史や詩文を伝える語り部)を連想させる、詩的で洞察に富む言語を用いている。彼はヒップホップ世代における不世出の才である。黒人の都市文化を批判しながらも、同時に受け入れる勇気を充分に携えた優れて政治的な批評家なのだ。その著述がこれほど鮮やかなのは、彼が魂――彼自身の魂――から書いているという事実に尽きる。彼は現代アメリカの魂、つまり都市の真相を正確に検証する。この本を読んで、涙を流そうではないか……そして笑い、歌い、叫び、新世紀がどうなるのかを探り出そう。

ロビン・D・G・ケリー カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授(著書『ゲットーを捏造する アメリカにおける都市危機の表象』村田勝幸・阿部小涼訳、彩流社、2007年など)

オサジェフォ・セイクウ牧師の著書『アーバンソウルズ』は、近代社会の病理に戒めを発し、またそれに対する処方箋を提示するものである。本書は「なぜ」と問うだけでなく、「いかにして」という打開策をも示してくれる。「若者へと振るわれる構造的暴力」に引導を渡す一方で、自らの生きる環境に閉塞をもたらす病弊をただすべく備えよと、わたしたちを促しているのだ。鋭く、示唆に満ち、わたしたちを霊的に奮い立たせてくれる、本書はそうした本なのである。

ウィリー・F・ウィルソン ユニオン・テンプル・バプテスト教会主任牧師(ワシントンDC)

アメリカを変容させるために、『アーバンソウルズ』は新たな人間像を打ち出している。セイクウ牧師は、ヒップホップ・カルチャー、宗教、そして、政治についての洞察を織りまぜてダイナミックな社会分析を行った。それは、アフリカ系アメリカ人コミュニティにのしかかる現代の諸問題を物語るものなのだ。

マニング・マラブル(著書『マルコムX 伝説を超えた生涯』秋元由紀訳、白水社、2019年など)

自らの声が聞き入れられ、受け止められるどころか、一方的に説教され身動きできなくされている――アフリカ系アメリカ人の若者たちがそうした状況に置かれているところに、『アーバンソウルズ』は新たな風を吹き込む。そこでセイクウ牧師は、真実を語っている。そして、貧困レベルの「マックジョブ」しかなく、希望は打ち砕かれ、ドラッグが蔓延した社会の見取り図を描きながら、恩寵の意味するものを押し広げていくのだ。彼はラップやその他様々な創造的抵抗の形式に、美しいもの、霊的なものを見出すのだが、ヒップホップが社会一般の貪欲さ、ホモフォビア、暴力、男性中心主義の外部に踏み出しているかのように見せかけるような真似は決してしない。セイクウが言うところの「愛」そして「自己批判」を心の奥底から呼び求める声を、『アーバンソウルズ』は炎をもって癒すのである。

デヴィッド・ロディガー カンザス大学

福音と世界

毎月10日発行(小社入庫)。
教会と社会の課題を扱う神学的オピニオン誌。1952年4月創刊。

書籍のご注文と「福音と世界」の定期購読は下記よりお申込みいただけます。

書籍をご注文

福音と世界 バックナンバー

ページトップへ戻る